気候変動課題への取り組み

1. はじめに

全国共済農業協同組合連合会(以下、JA共済連)は、農業協同組合が理念とする「相互扶助(助け合い)」を事業活動の原点とし、ひと・いえ・くるま・農業の各分野における保障提供活動や、さまざまな地域貢献活動を通じて、組合員・利用者、農業従事者、地域住民の皆様が豊かで安心して暮らすことのできる地域社会づくりに取り組んでまいりました。そして、このような取り組みの一つひとつが、SDGsの実践そのものと考えています。

こうした考えに基づき、JA共済連では、2021年3月に「JA共済SDGs取組方針」を策定し、持続可能な農業・地域社会の実現に向けてSDGsに取り組むことを決定しました。当方針に定める優先課題の一つとして、気候変動への対応を掲げており、温暖化防止や環境保護に資する取り組みにより、気候変動に代表される地球環境問題の解決への貢献に向けて取り組んでまいります。

さらに、JA共済連は、金融安定理事会(FSB)により設置された「気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures , TCFD)」の提言の趣旨に賛同し、TCFDの枠組みに沿って本年度より気候変動の対応に関する開示を行うこととしました。今後も、気候変動対応の取り組みをより一層推進するとともに、情報開示の充実を図ってまいります。

2. ガバナンス

JA共済連では、気候変動を含むサステナビリティを経営上の重要課題としてとらえ、経営管理委員会・理事会による監督のもと、サステナビリティ経営にかかる取り組みを経営戦略やリスク管理に反映しています。

経営管理委員会および理事会は、気候変動の対応にかかる経営上の重要事項について決定するとともに、JA共済連における温室効果ガス(GHG)の排出状況などの報告を受け、必要に応じて対応を指示しています。

気候変動の対応を推進する観点で、経営企画担当理事を責任者と定め、当該理事が経営管理委員会および理事会に対し、気候変動の取組状況について定期的に報告を行う態勢としています。

執行を担う主要機関として、2024年度内に経営企画担当理事を議長とする「サステナビリティ委員会」を設置し、年2回の定例会を通じて、気候変動に対するJA共済連の具体的な取り組みについて検討を行います。議論された内容については、実施の都度、担当理事より理事会・経営管理委員会に報告します。

3. 戦略

【気候変動のリスクおよび機会】

気候変動にかかるリスクには、低炭素社会への転換に向けた政策や市場環境の変化にかかる「移行リスク」と、気温上昇の影響や自然災害の激甚化などの「物理的リスク」があります。他方で、こうした外部環境の変化は新たな需要の創出や技術革新などの「機会」も生み出すと考えられます。

JA共済連では、短期(2030年まで)、中期(2050年まで)、長期(2050年以降)の時間軸で気候変動にかかるリスクと機会について、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が公表している1.5℃シナリオ、および4℃シナリオを前提に評価しています。認識した気候変動リスクおよび機会を踏まえて、GHG排出の削減などの対応に取り組んでいます。

また、気温上昇や異常気象の激甚化は、組合員・利用者である農業者の事業や地域社会に影響を与える可能性があります。気候変動の動向やその影響については不確実性が高いとされていますが、外部の研究などを参考に、引き続き、JA共済連の事業基盤である農業や地域社会への影響についても慎重に見ていく必要があると考えています。

リスクと機会 想定シナリオ 発生する事象 事業活動への影響 時間軸
物理的
リスク
急性 4℃ 気温上昇に伴い台風が大型化し洪水等の被害が激甚化するなど極端な気象事象が増加する 建物分野の共済金支払が拡大する 中長期
移行
リスク
評判 1.5℃ 低炭素志向の世の中に移行が進み、脱炭素対応に対する関心が高まる 組織内の気候変動への対応や開示が不十分であった場合、レピュテーションが毀損する 短期
機会 レジリ
エンス
4℃ 気温上昇に伴い台風が大型化し洪水等の被害が激甚化するなど極端な気象事象が増加する 極端な気象事象に備える仕組みの開発・提供の必要性が高まる 中長期
  • TCFDが示しているサブリスク・機会

【定量的シナリオ分析】

リスクと機会の整理にあたり、IPCCが公表している1.5℃シナリオ、および4℃シナリオを前提に、定性評価を実施しました。今後は、特に重要と考えるリスクについて定量的に分析してまいります。

【GHG排出削減に向けた取り組み】

JA共済連では、2050年のカーボンニュートラル達成に向けて、事業活動から排出される温室効果ガス(GHG)の削減に取り組んでいます。
<省エネルギー、再生可能エネルギー使用にかかる取り組み>
JA共済連の各施設において、照明や空調によるエネルギー使用の削減やペーパーレス化などによる紙の使用量削減を行っています。また、省エネ設備の導入や再生可能エネルギー化されている電力の使用の拡大にも順次取り組んでまいります。

【投資の観点からの取り組み】

JA共済連では、自らのGHG排出削減に取り組む(「指標と目標」項目を参照)とともに、機関投資家としても脱炭素社会の実現に向けた取り組みを行っています。

資金運用を通じて気候変動への対応などSDGsの達成に貢献するため、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の要素を考慮したESG投資に取り組んでおり、具体的には下記の対応を行っています。

①投資分析と投資プロセスへのESG課題の組込み(ESGインテグレーション)
投資判断において、企業分析や銘柄分析にESG要素(非財務情報)の評価を組み込んでいます。

②ESG課題に対する投資先との対話(エンゲージメント)
投資先におけるESG課題などについて、持続的な成長と企業価値向上を促すことを目的に、投資先との対話を進めています。運用ポートフォリオのGHG排出に関しては、投資先に排出削減を促すことを通じて、脱炭素化に取り組んでいます。

③SDGsの課題解決を目的とした投資(テーマ型投資)
気候変動テーマ型投資など、SDGs達成への貢献が出来る資産への投資を進めています。

④ネガティブ・スクリーニング
運用資産において、特定の業種・企業などを投資対象から除外しており、気候変動への影響が懸念される石炭火力発電へのプロジェクトファイナンス(脱炭素化に向けた移行に資すると判断した案件は除く)を行わない方針としています。

今後もESG投資を通じた脱炭素社会の実現に取り組んでまいります。

4. リスク管理

JA共済連では、各種リスクを組織的に管理するため、「リスク管理基本方針」を制定し、この基本方針のもと、保有するリスクを「共済引受リスク」「資産運用リスク」「流動性リスク」「事務リスク」「システムリスク」「法務リスク」「人的リスク」「有形資産リスク」「風評リスク」に区分し、リスクごとの管理を実施するとともにすべてのリスクを統合的に管理し、事業全体でコントロールする統合的リスク管理を実施しています。

気候変動リスクについてもこうした統合的リスク管理の枠組みの中において管理しています。

リスク管理の体制としては、「統合リスク管理部門」としてリスク管理部を設置し、保有するリスクを総合的に管理するとともに、リスクごとに担当部門を定め、リスクの把握やコントロールを行っています。また、「統合リスクマネジメント(ERM)委員会」を設置し、経営・事業運営全般のリスクなどに関する事項の審議を行うなど、統合リスク管理の高度化に向けた取り組みを進めています。

5. 指標と目標

JA共済連では、気候変動問題の解決に向け、 2050年までのGHG排出量のネットゼロ達成を最終目標として設定しています。また、2035年度までに2019年度対比で投融資以外の事業活動にかかる排出を60%削減、2030年度までに2019年度対比で投融資からの排出を45%削減するという中間目標も設定の上、削減に取り組んでいます。

JA共済連におけるGHG排出量の直近の実績(2022年度)は以下のとおりです。

スコープ 排出量 (2019年度比)
Scope1 t-CO2 3,518 ▲13.2%
Scope2 14,138 ▲ 6.5%
Scope3(投融資以外) 12,668 ▲19.0%
カテゴリ別 1:購入品 786 ▲70.0%
3:エネルギープロセス排出 3,504 9.0%
5:廃棄物 76 165.4%
6:出張 691 ▲44.5%
7:通勤 5,099 ▲ 6.1%
合計(投融資以外) 27,808 ▲12.3%
対象 排出量 (2019年度比)
投融資に係る排出量 ※ 万t-CO2 196 ▲38.6%
  • 対象資産は国内現物株式・国内円建社債・国内一般貸付金、対象ScopeはScope1・2である。